その唇に魔法をかけて、
 藤堂と砂浜で話した時のことを思い出す。

 あの時、藤堂の言いかけた言葉が再び波紋を広げた。

 美貴はあの言葉の意味がどうしても知りたかった。彼が自分を疫病神だと蔑む理由がそこにあるような気がしたからだ。藤堂の両親が亡くなっていることを知っていたのが意外だったのか、花城は一瞬驚いた顔をして視線を止めた。

 一歩間違ったことを言えば地雷になりかねない。まるで吊り橋を渡るような感覚で花城にかける言葉を考えあぐねていると、花城が先に口を開いた。

「藤堂の両親が死んだのは俺らがまだ中学生の時だった。藤堂の両親は気さくな人で地元の学校の先生だったんだ。あいつ、見た目先生っぽいだろ?」

 生真面目であまり表情を崩さない藤堂の顔を思い浮かべると、先生と言われて思わず納得してしまう。

「うちの誠一と仲良くしてくれてるお礼にって、プレゼントを買いに出かけた先で事故に遭った。だから俺があいつと仲良くしていなければって何度も後悔した」

「そんな……」

「それに、かえで姉さんの旦那の翔さんも……俺がツーリングなんかに行こうなんて、あの日誘わなければ事故に遭わずに済んだんだ」

 心を苦い後悔で引き裂かれ、そして花城が語る度にその表情が苦しげに歪む。そして何かにとり憑かれて、後悔の念を自白させられているようにも見えた。

(かえでさんの旦那様が亡くなった理由って……)

 藤堂とかえでとの間にある衝撃的な花城の過去を知らされ、異物が喉の奥で詰まったように言葉がでなくなった。
< 171 / 314 >

この作品をシェア

pagetop