その唇に魔法をかけて、
※ ※ ※

 透き通るような青空の下、旅館の玄関先で水撒きをしている彩乃と美貴の姿を花城はそっと総支配人室の窓際から見下ろしていた。

「美貴ー! 水出すよー?」

「え? ち、ちょっと待って! ホースが絡まって……きゃあ!」

「あっはは! 美貴ったら水浸し!」

「もう! ちょっと待ってって言ったのに」

 そんな彼女の明るい声がここまで聞こえてくる。

 美貴の笑顔が水の煌きとともに眩しく光って、花城は思わず溜息をついた。

「なに? 恋煩いの溜息?」

「うるさい」

 不意を突くような藤堂の鋭い指摘に花城はくるりと窓に背を向けて、机上に並んだ書類を手にとった。

 先日、酒の試飲を口実に仕事終わりの美貴を呼び出したはいいが、最近の多忙が祟って疲れていたからなのか、酒が入っていたこともあり不覚にもわけのわからない事を口走ってしまった。挙句、美貴に叩かれる始末。

(男として情けなさすぎるだろ……)
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