その唇に魔法をかけて、
 思い返すたびに髪の毛をかきむしって叫びだしたい衝動に駆られる。人の気も知らないで涼しげな顔を崩さない藤堂にも無性に腹が立つ。

「そんな誤魔化さなくてもいいのに、響也は昔から顔に出るからわかりやすい」

「ふん」

 周りからはあまり顔に感情が出ないと言われているのに、この男の前ではかたなしだ。

 花城が横目で鋭く睨む。そんな視線に気づいているのかいないのか、藤堂は書類をまとめながら平然としていた。

「俺が溜息をついてるのはそんなんじゃない。わかってるだろ」

 花城は今、別件で心底機嫌が悪かった。

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