その唇に魔法をかけて、
 バスの発車時刻まであと五分もあるのに、なぜかもう黎明館へ行くバスが来ていたのだ。

「田舎のバスなんて適当だからね~。次のバスは三十分後だよ」
勢いよく席を立ち、焦り顔を見て悟ったマスターがぼそっと独り言のように呟いた。

「すみません! ごちそうさまでした!」

 あのバスに乗らなければ中休み終了まで間に合わない。この暑い中、重たい荷物をかかえて徒歩で帰るなんて酷だ。

 急いで会計を済ませると、美貴は何も考えずに慌てて店の外に飛び出した。

 その時――。
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