その唇に魔法をかけて、
「大丈夫ですか!?」

「あぁ、お嬢さん、どこか怪我はないかな?」

 声をかけられているのが聞こえる。道行く人が立ち止まって自分のことを驚いた表情で見ているのがわかる。ということは、意識はあるということだ。

「は、はぁ……。大丈夫、みたいです」

 美貴の無事を見届けると、再び周りの景色が何事もなかったかのように動き出した。

「オーウ! なんてことだ。こんな可愛いお嬢さんをお前は車で轢くところだったんぞ」

「申し訳ありません」

 後部座席に座っていた年配の男性が頭を抱えている。そんな彼に何度も頭を下げているのは運転手のようだ。

「このお嬢さんに謝りなさい! 私のことはいいから」

 後部座席の男性は、真っ白なスラックスに柄物のシャツを着ていて濃い目の色合いのサングラスをかけていた。モデルのように背が高く、がっしりとした体躯に浅黒い肌が野性的なものを感じさせる。

「こ、こちらこそすみませんでした! あの、その方に罪はありませんので……本当に申し訳ありません。バスに乗ろうとしていて周りを見てなかったのがいけないんです」

 気づくと乗るはずだったバスはすでに姿を消していて、中休みが終わるまでに黎明館に戻ることはできなくなってしまった。
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