その唇に魔法をかけて、
「もしかして、さっきのバスに乗ろうとしていたのかな? 観光客にしては荷物に一升瓶だけっておかしいし、お嬢さんは買い出し中の仲居さんかなにか? あ、もしかして黎明館?」

 後部座席の男性はどことなく個性的で、またその鋭い洞察力に驚いて無意識にこくりと頷く。すると、男性はサングラスの向こうで片目をパチリと瞬きして、浅黒い肌に映える白い歯を見せて二ッと笑った。

「やっぱりね! 実は私たちもこれから黎明館に行くんだよ。よかったら一緒に乗って行かないか? っていうか乗って行ってくれ、怖い思いをさせてしまったせめてものお詫びだ」

「え? でも……」

「いいんだって。ほら、お前、このお嬢さんのお荷物をお持ちして」

 手にしていた料理酒を運転手によって車に運び込まれてしまうと、背中を押されて後部座席に座るように促された。

(これって、新手の誘拐……とかじゃないよね?)

 胸の中に一抹の不安を抱えて、隣に乗り込んできた風変わりな男性を横目でちらりと見ると、それと同時に車が動き出した。
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