その唇に魔法をかけて、
「な、なんで……お前が親父と……」

「それが……偶然街で会っちゃったんです」

 黎明館に到着する数時間前に気を利かせた香川が、すでに花城に連絡をとっていたため、玄関では数名の仲居と花城と藤堂が出迎えていた。しかし、車から降りてきたのは自分の父親と秘書兼運転手の香川だけではなかったのを見て、さすがの花城も驚きを隠せずに顔を引きつらせて動揺していた。

「まぁ、細かいことは気にするな。みんな元気そうで何よりだな、はっはっは」

「元気そうでなにより……じゃないだろ! ったく、いきなり連絡もらったから今日のスケジュールがほとんど台無しだ! いい加減その適当な性格――」

「響也は相変わらずおこりんぼうだなぁ、皺がふえちゃうぞ? ねぇ、誠一」

 花城は今日、午後から視察に少し離れたところにあるホテルへ行くつもりにしていた。その後に、季節物の食材の検討やその他もろもろの作業があったのだが、突然の来訪者によってリスケジュールとなってしまった。

「ご無沙汰しています。おじさんもお変わり無いようで……」

 藤堂が恭しく頭を下げる。まるで執事のような立ち振る舞いに、花城は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 花城龍也の突然の訪問により、これから一体何が起こるのか想像すると心が騒ぎ立つ。そして予測できない未来に、美貴は一抹の不安を同時に覚えるのだった。
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