その唇に魔法をかけて、
 花城家は代々、黎明館内に自室を設けて住み込みで経営をしていたが龍也は仕事とプライベートの気切りはきちんとしておきたいタイプで、祖父の反対を押し切って黎明館から少し離れた場所に自分で家を建てた。やはり自宅が落ち着くのか、昨夜から龍也は黎明館ではなく実家に滞在していた。

 滅多に日本にはおらず、世界各国巡っている龍也だったが、黎明館の総支配人は退いたものの、まだ会長という肩書を持っている。花城は彼が水面下でなにか活動しているのではないかと疑っていた。今の黎明館の責任者は自分だ。勝手な真似をしないで欲しい。というのが花城の本音でもあった。

『この前言っていた大事な話ってのをさっそくお前に話しておこうと思ってな、今からこっちに来れるか?』

「な……これからって、俺はこれから仕事だぞ?」

『十分もあれば事足りる。ではな』

「ちょ、待てって! ったく」

 プツと容赦なく通話が切れる。

 相変わらず自由奔放で地球は自分を中心に回っているのだ。とでも言わんばかりの態度に花城は顔をしかめてスマホを握りしめた――。
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