その唇に魔法をかけて、
※ ※ ※
朝礼が始まる数分前。
「えーっと、これが“いらっしゃいませ”だっけ?」
「違うよ彩乃ちゃん、“いらっしゃいませ”はこう」
美貴は早めに朝礼場所にやってきた彩乃に手話の手ほどきを教えていた。毎日のように空いている時間に手話の勉強をしていたのを見ていた彩乃が、自分も簡単な挨拶程度のものを身につけたいから教えて欲しい。と言ってきたのだ。
「あ~やっぱり難しい! 私には無理!」
「慣れれば大丈夫だよ。私も最初は全然できなかったし……」
「育ちの違うお嬢様とは元々頭の出来も違うんだよ」
何度やっても覚えられないことに、彩乃は不貞腐れて憎まれ口をきく。
「あ! 響兄ちゃん」
するとむくれ顔だった彩乃がぱっと明るくなり、その視線の先に目を向けると、ちょうど花城が歩いてやって来るのが見えた。
「彩乃、職場でその呼び方はやめろって言ってるだろ」
「はいはい、わかりました。それよりさ! 大ニュース! 美貴がこの前ね、手話検定三級に合格したんだって」
すると花城は一瞬目を大きくさせたが、さほど驚いた様子もなく「ふぅん」とそっけなく返事をしただけで、美貴に目を合わせることもなく歩いて行ってしまった。
朝礼が始まる数分前。
「えーっと、これが“いらっしゃいませ”だっけ?」
「違うよ彩乃ちゃん、“いらっしゃいませ”はこう」
美貴は早めに朝礼場所にやってきた彩乃に手話の手ほどきを教えていた。毎日のように空いている時間に手話の勉強をしていたのを見ていた彩乃が、自分も簡単な挨拶程度のものを身につけたいから教えて欲しい。と言ってきたのだ。
「あ~やっぱり難しい! 私には無理!」
「慣れれば大丈夫だよ。私も最初は全然できなかったし……」
「育ちの違うお嬢様とは元々頭の出来も違うんだよ」
何度やっても覚えられないことに、彩乃は不貞腐れて憎まれ口をきく。
「あ! 響兄ちゃん」
するとむくれ顔だった彩乃がぱっと明るくなり、その視線の先に目を向けると、ちょうど花城が歩いてやって来るのが見えた。
「彩乃、職場でその呼び方はやめろって言ってるだろ」
「はいはい、わかりました。それよりさ! 大ニュース! 美貴がこの前ね、手話検定三級に合格したんだって」
すると花城は一瞬目を大きくさせたが、さほど驚いた様子もなく「ふぅん」とそっけなく返事をしただけで、美貴に目を合わせることもなく歩いて行ってしまった。