その唇に魔法をかけて、
「なによ、響兄ちゃんの愛想なし! 今に始まったことじゃないけどさ、おめでとうくらい言ってあげればいいのに、ねぇ?」

 彩乃はいつもの朝礼の位置に着く花城に頬を膨らませた後、気にしない気にしないと明るく美貴の肩を叩いた。

「う、うん……」

 確かに花城は機嫌が悪かった。

 いつも美貴を見かけると声をかける花城だったが今日はなにか違った。自分がなにかしてしまったのではないか、と思い返してみたが特に心当たりもない。

 今まで勉強してきた力試しのつもりで、密かに先日検定試験を受けた。すると幸運にも合格通知が届いたのだ。

(手話検定三級なんて、花城さんにとっては珍しくもなんともないんだよね……)

 努力が形になったことが嬉しくて一番に花城に知らせようと思っていたが、そう思うと高揚した気持ちもしゅうしゅうと萎んでいった。
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