その唇に魔法をかけて、
 そう思い込むのは昔からの悪い癖だと散々かえでや藤堂にも言われてきた。けれど、花城は自分に関わって不幸になった人たちのことを思うと、自責の念に囚われずにはいられなかった。

「くそ……」

 長い回想を打ち切り、花城は目の前に広がる青い海を見つめた。

 爽やかな朝だというのに心の中をかき乱されて鬱々とした気分になってくる。頭を振って無理矢理にでも気持ちを切り替えると、花城は仕事に向かう支度を始めた。

 つけっぱなしにしていたテレビにふと目が行く。リモコンを手にして消そうとしたその時。

『牡羊座のあなた、今日は重大な決断を迫られる日になりそう。あなたにとって本当に正しい道なのかよく見極めて』

 花城が嫌いな星占いのコーナーが始まった。なぜ、見ず知らずの人間に今日一日の自分の運勢を決められなければならないのかと、いつも不機嫌になる。これから仕事に行こうという時に嫌なことを聞いてしまった。花城は三月生まれの牡羊座だ。

(くだらないな……)

 しかし、花城はその占いがまんざら嘘でもなかったということを、後に思い知らされるのだった。
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