その唇に魔法をかけて、
「美味しい! スカッとしますね」

 かえでを待たせてはいけないと、急いで仕事を終わらせて水分補給するまもなくここへ来た。炭酸ののどごしが爽快で、渇いた身体に染み渡っていった。

「でしょ! 仕事終わりの一杯ってなんでこんなに美味しのかしら……って今、オヤジ臭いって思ったでしょ?」

「えっ!? そ、んなことないです!」

「あははは! 美貴ちゃんってば、本当に顔に出やすいんだね。態度にも出やすいからわかりやすいわ」

 かえでは運ばれてきた焼き鳥を頬張りながら豪快に笑った。しかし、その笑顔も急に真剣なものに変わる。

「んで? いったい昨夜、響ちゃんと何があったの?」

 やっぱり来た。心の中で覚悟はしていたが、いきなり直球で来られると言葉に迷う。

「……別に、たいしたことないです」

「嘘。今日一日、なにか嫌なことを忘れたくて仕方がないような仕事っぷりだったわよ? お姉さんの目は誤魔化せません」

 かえでがずいっと両肘をテーブルについて前のめりになる。そして顔を覗き込まれると、もう逃げ場はないような気がした。

 花城にふられてしまったことは誰にも言わないでおこうと心の中で決めていたが、こうもあっさりかえでに見破られてしまっては立つ瀬がない。それに図星されてしまい、すでに顔に出ているはずだ。
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