その唇に魔法をかけて、
「美貴ってば、いいよ自分の分は自分で払うから」

「いいのいいの、連れてきてくれたお礼くらいさせて」

 美貴は財布からお金を出そうとする彩乃を制して、伝票を会計に持っていった。

「支払いはカードでお願いします」

「はい、かしこまりました」

 美貴が二人分の会計を済ませ、彩乃に向き直る。

「おまたせ」

「あ、ううん、ありがとう、ごちそうさまでした」

 彩乃が財布に収められるカードを訝しげにじっと見ている。

「どうしたの?」

 その視線に気づいた美貴は、店の外に出ながらなにか戸惑っているような様子の彩乃に尋ねた。

「美貴、クレジットカードなんて持ってるんだ」

「うん、これは――」

 パパが持たせてくれているものなの――。

 思わずそう口をついて出そうになった言葉を慌てて呑み込んだ。自分のものではないカードで買い物をしているという後ろめたさを感じて、美貴は咄嗟に言葉を取り繕った。

「カードがあるとなにかと便利だからね」

「う、うん、便利だよね」

 そう言いながら無垢な笑顔を浮かべる彩乃に、うしろめたさを感じながら黎明館へ戻るバスへ乗り込んだ。



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