その唇に魔法をかけて、
「それは良かったな、こちらこそ礼を言う」

「え……?」

お礼を言われることをしただろうかと、美貴はきょとんとして花城を見つめる。

「彩乃がお前と街へ行ってお茶をご馳走になったと言っていた。あいつ、今まで友達らしいやつが近くにいなかったから、お前がきたおかげで楽しくやってるみたいだ」

 その時、彩乃が花城のことを響兄ちゃんと呼んでいたことを思い出した。

「妹さんみたいな感じですね」

「あぁ、俺はあいつが中学の頃から知ってる。未だにガキみたいにせっついてくるけどな」

 花城と彩乃の間には切れない絆があるのだ。そう思うとなぜか切なさがこみ上げてきてしまう。

(彩乃ちゃんのこと、ほんとに可愛がってるんだな……)

 そんな風に思っていると、真顔で花城がじっと美貴を見据えた。

「お前の持ってるクレジットカード、それ、親父のだろ」

 いきなり何の脈絡もないことを言われて、美貴は言葉に詰まった。

「彩乃が言ってた、勘定の時にカードで支払ってたって」

 やっぱり見られていた。だから、会計の時になんとなく彩乃の様子が少し変だったのだ。親のカードで買い物する友達なんてたくさんいたし、気にも留めていなかった。けれど、それは迂闊な行動だったのだと、美貴はいまさら後悔する。

「はい、実はこれ、パ……父のものなんです。何があるかわからないからって持たせてもらってるもので――」

 なんとなく花城の表情が硬い。怒っているようにも思えて美貴はしどろもどろになってしまう。

「そのカード貸せ」

「え?」

 花城の言っている意味がわからない。いきなりカードを貸せ、と言われて困惑する。美貴は早くしろと言わんばかりに手をひらひらとさせている花城に、財布の中からカードを取り出すと手渡した。

「先に言っておくが、俺は深川さんからお前がちゃんと社会人として自立できるように全面的に任されている。お前、いつまで父親名義のカードに頼る気だ?」

「そ、それは……」

 人差し指と中指の間にカードを挟みながら花城は厳しい顔つきで言う。その気迫に、美貴は黙りこくってしまう。自分の買い物をする時も甘んじて使っていたことを思い出すと、言い返す言葉が見つからない。

 すると次の瞬間、思いもよらぬことが目の前で起きた。
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