その唇に魔法をかけて、
美貴を車で送り届け、花城は一日の疲れをどっと感じながら気怠い身体で帰宅した。玄関のドアが閉まるのと同時にポケットの中の携帯が鳴る。
「なんだ藤堂か、こんなタイミングで電話かけてくるなんて、お前まさか後つけてきたんじゃないだろうな?」
スマホを耳にあてがいながら、投げ出すように花城はどかりとソファに疲れた身体を沈めた。
『まったく、幼馴染とはいえ、失礼な物言いだね』
仕事中の堅苦しい口調とは違い、まるで友達同士で会話するような崩れた言葉に花城は小さく笑った。
藤堂とは小学生の頃からの腐れ縁だ。黎明館で仕事をするようになってから、藤堂は嫌味のように紳士ぶった話し方をするようになった。それは、花城にとって一番気に入らないことのひとつだった。
「まさか、俺が送り狼にでもなったかと心配したか? そんなこといちいち心配して電話してきたんなら、お前も案外暇なんだな」
茶化すように言うと、ムッとした藤堂の声が飛ぶ。
『うるさい。ありえなくもないだろ』
「馬鹿か、俺があんな色気のないガキに手を出すかよ」
妙な誤解を本気でしていた藤堂に、呆れ交じりにため息づく。
『わかってると思うけど、彼女は深川氏からの大事な預かりものなんだからな』
「ふん、わかってるって」
自分でも百も承知していることを冷静に諭され、花城は面白くなさげに眉を歪めた。
「明日も早いんだ、もう切るぞ」
『じゃあ、また明日』
電話を切ると部屋は静寂に包まれる。花城は携帯をソファの上に投げおくとため息をついた。
「預かりもの……ね」
花城の小さなつぶやきは誰の耳に届くことなく、夜の闇に消えていった――。
「なんだ藤堂か、こんなタイミングで電話かけてくるなんて、お前まさか後つけてきたんじゃないだろうな?」
スマホを耳にあてがいながら、投げ出すように花城はどかりとソファに疲れた身体を沈めた。
『まったく、幼馴染とはいえ、失礼な物言いだね』
仕事中の堅苦しい口調とは違い、まるで友達同士で会話するような崩れた言葉に花城は小さく笑った。
藤堂とは小学生の頃からの腐れ縁だ。黎明館で仕事をするようになってから、藤堂は嫌味のように紳士ぶった話し方をするようになった。それは、花城にとって一番気に入らないことのひとつだった。
「まさか、俺が送り狼にでもなったかと心配したか? そんなこといちいち心配して電話してきたんなら、お前も案外暇なんだな」
茶化すように言うと、ムッとした藤堂の声が飛ぶ。
『うるさい。ありえなくもないだろ』
「馬鹿か、俺があんな色気のないガキに手を出すかよ」
妙な誤解を本気でしていた藤堂に、呆れ交じりにため息づく。
『わかってると思うけど、彼女は深川氏からの大事な預かりものなんだからな』
「ふん、わかってるって」
自分でも百も承知していることを冷静に諭され、花城は面白くなさげに眉を歪めた。
「明日も早いんだ、もう切るぞ」
『じゃあ、また明日』
電話を切ると部屋は静寂に包まれる。花城は携帯をソファの上に投げおくとため息をついた。
「預かりもの……ね」
花城の小さなつぶやきは誰の耳に届くことなく、夜の闇に消えていった――。