その唇に魔法をかけて、
第三章 マルタニ商事の社員旅行
――翌日。
『ええっ!? カードを失くした?』
「う、うん……そうなんだ。ごめん」
朝、出勤前に美貴は昨夜、花城に丸められたクレジットカードだったものを手でもてあそびながら父に電話をかけていた。
昨夜の経緯をどう説明したらいいかわからず、美貴は結局失くしたと言い訳をした。
『それじゃお前が困るだろう、新しいカードを発行してもらうように――』
「いいの!」
きっとそう言うだろうと思っていた。美貴はそんな父の甘い言葉を遮った。
『え……?』
いつもと様子の違う娘に、深川は訝る。
「私、もう社会人なんだよ? 今度から自分で働いて稼ぐんだから。いつまでも親のお世話になってるわけにもいかないでしょ?」
『み、美貴……そうか、そうか、うんうん』
グシグシと鼻を擦る音が電話の向こうで聞こえると、美貴は小さく笑った。完全に花城の受け売りだったが昨夜、花城に厳しく言われて気づかされた。いつまでも親に甘えてばかりではいけないと。
「うん、じゃあね、もう行かなきゃ」
美貴は花城に丸められたカードの塊をゴミ箱に捨てて政明との電話を切ると、窓から見える海を眺めた。
この土地は不思議だ。海が見えると思えば反対側は山が見える。
好きな服を買いに行けるような店もないし、遊べるようなところもない、なんの変哲もない田舎街だったが、なんとなくここが好きになれそうな気がした。
(よし! 今日も頑張ろう!)
美貴は気合を入れると晴天に拳を突き上げた。
『ええっ!? カードを失くした?』
「う、うん……そうなんだ。ごめん」
朝、出勤前に美貴は昨夜、花城に丸められたクレジットカードだったものを手でもてあそびながら父に電話をかけていた。
昨夜の経緯をどう説明したらいいかわからず、美貴は結局失くしたと言い訳をした。
『それじゃお前が困るだろう、新しいカードを発行してもらうように――』
「いいの!」
きっとそう言うだろうと思っていた。美貴はそんな父の甘い言葉を遮った。
『え……?』
いつもと様子の違う娘に、深川は訝る。
「私、もう社会人なんだよ? 今度から自分で働いて稼ぐんだから。いつまでも親のお世話になってるわけにもいかないでしょ?」
『み、美貴……そうか、そうか、うんうん』
グシグシと鼻を擦る音が電話の向こうで聞こえると、美貴は小さく笑った。完全に花城の受け売りだったが昨夜、花城に厳しく言われて気づかされた。いつまでも親に甘えてばかりではいけないと。
「うん、じゃあね、もう行かなきゃ」
美貴は花城に丸められたカードの塊をゴミ箱に捨てて政明との電話を切ると、窓から見える海を眺めた。
この土地は不思議だ。海が見えると思えば反対側は山が見える。
好きな服を買いに行けるような店もないし、遊べるようなところもない、なんの変哲もない田舎街だったが、なんとなくここが好きになれそうな気がした。
(よし! 今日も頑張ろう!)
美貴は気合を入れると晴天に拳を突き上げた。