その唇に魔法をかけて、
「本日、マルタニ商事の御一行様が社員旅行ということで一泊されます。到着は午後の四時の予定です。毎年贔屓にしていただいてますが、今回、高林社長は欠席とご連絡がありました。他にもご家族で宿泊されているお客様もいらっしゃいますのでおもてなしを均等に行き渡るように心がけてください」

 朝礼で藤堂が予定表と見比べながら今日のスケジュールを伝達する。

 マルタニ商事は毎年一回、黎明館に社員旅行に来る。食品酒類卸商社で、黎明館とは花城龍也の代から懇意にしている会社のひとつだった。総勢で約三十人ほどだが、今回は社長の高林が欠席すると連絡を受けた。

「嫌だね~まぁたあのセクハラ専務も来るのかな?」

「去年大変だったよねぇ~悪酔いしちゃってさぁ」

 隅の方で仲居同士がこそこそとマルタニ商事のことを何か話している声がして美貴は隣の彩乃に尋ねた。
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