その唇に魔法をかけて、
「マルタニ商事って評判悪いの?」

「うん、ちょっとね……」

 朝礼の最中でもおしゃべりしてくる彩乃だったが、話しかけても目も合わせず俯いている。その違和感に美貴は彩乃の顔を覗き込む。

(彩乃ちゃん……?)

 今朝、更衣室で彩乃と会った時から彩乃の様子が変だった。いつもなら笑顔で朝から色々と話しかけてくるのに、今日はやたら静かで口数も少ない。それにほかの仲居が自分を見る視線も妙な気がする。朝礼が終わりそうなタイミングを見計らって、美貴は気を取り直してもう一度彩乃に声をかけた。

「彩乃ちゃん、今日の中休み時間あったらさ――」

「ごめん、私ちょっと今日は時間ないの」

 まるで話しかけられるのを拒否するように、どことなく冷たい口調で彩乃が言う。そんな風に言われたら二の句が継げなくなってしまう。

「……そ、そうなんだ」

(やっぱりなにか変……)

 自分に思い当たる節がないか思い返してみたがわからない。藤堂の解散という声とともに彩乃は何も言わずに背を向けて、さっさと自分の持ち場へ行ってしまった。
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