その唇に魔法をかけて、
「どうした?」

「……彩乃ちゃんの様子が今朝から変なんです、なんだか避けられてるみたいで」

 花城にこんなことを話しても仕方がないし、かえって迷惑に思われてしまうとわかっていても美貴はついぽろっと言葉をこぼしてしまった。

「なんだ、あいつまたヘソ曲げてんのか」

花城はやれやれ、と頭を掻いてほんの少し汗で湿気を含んだ髪の毛を掻き上げた。

「え……?」

「まぁ、たまにあることなんだが……その原因は俺にもわからねぇな。わかってるのはまだガキだから、原因もくだらないってことくらいか」

(ガキって言っても私と同じ年なんだけどな……)

(花城さんは私のこと、まだ子供だって思ってるのかな……)

 そんなふうに思うと花城との年の差が歯がゆく感じられてならなかった。

「花城さんって弓道ずっとやってるんですか?」

 取り留めのない話を終わらせたくて、美貴は弓に視線を向けながら尋ねる。

「え? あぁ、ガキの頃からずっとやってる。最初はやらされてる感じだったけどな、いやでいやで稽古途中で逃げ出したりしたこともあったな」

「そうなんですか? 花城さんって案外やんちゃだったんですね」

 花城の昔話に思わず笑みがこぼれる。

「お前はいつもそうやって笑っていたほうがいい」

「え……? いだだだ! なにふるんへふは」

 美貴が笑っていると花城が突然、両頬をぶにっとつまんできた。
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