その唇に魔法をかけて、
「あはは、おもしれぇ顔」

「いったぁ~もう! 何するんですか」

「そうそう、そうやって元気な方がいい」

(……もしかして、花城さん、私を元気づけようとしてくれたの?)

 優しさの中にも皮肉めいた独特な花城の笑顔に、乱れた鼓動がうるさく鼓膜に響く。次第に熱を持ち始める顔を誤魔化すように、つい余計なことを口走ってしまった。

「花城さんって元ヤンだったって、本当ですか?」

「……――」

 しかし花城は特に笑顔が凍りつくわけでもなく、次第に力ない笑みに変わっていった。

「元ヤンって、彩乃から聞いたのか? ったく、変なこと吹き込むなよな」

「じゃあ――」

「あぁ、本当だよ。高校の頃だったか、この界隈じゃ名の知れた悪ガキだったよ。そもそも家業を継ぐことに一番反発してた時期だったからな、けど、素行の悪い息子のせいで黎明館の名声もがた落ちになってさ、親父が倒れたことをきっかけに改心して大学にも入った」

美貴もそのくらいの年の頃、グランドシャルムを継ぐんだぞ、と父から言われていた。しかし、自分のやりたいことは自分で決めたいと反発し、よく父を困らせていたことを思い出す。

 しんみりした気持ちになっていると、美貴はふと花城の弓に目が留まった。しなやかに伸びたその弓は、滑らかな曲線を描き、見るからに高価なものだとわかる。熟練された使い手にふさわしい美しさが感じて取れた。
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