その唇に魔法をかけて、
「意外と大きいんですね」

「あぁ、これか?」

 花城はまるで相棒を自慢するかのように弓に視線を向けた。

「そうだ、お前もやってみるか?」

 いきなり突拍子もないことを言われて、美貴は全力で首を左右に振った。

「えっ!? 無理ですよ! そんな弓だって矢だって触ったことないのに」

「いいから、こっちこい」

 ぐいっと戸惑う美貴の腕を引っ張ると、花城はここに立てとつま先で示す。

「あの、ほんとに……わっ」

「大丈夫だ。俺がついててやるから、ほら、しっかり弓を持て」

 想像よりもずしりと重い弓を持たされると危うく落としそうになってしまった。その時、ふわっと背後に花城の気配を感じ腕を回されると、弓を持つ震える手の甲に大きな彼の手が重ねられた。

「まずは姿勢を正して、的に向かって足を踏み開け」

「あ、あの……私やっぱりできな――」

「いいからあの的に全神経を集中さろ」

 左手に持たされた弓の重みが全身をこわばらせる。けれど、それを力強く支えられると、不思議と矢を放てそうな気になるのが不思議だった。背後から伝わる花城の体温が弓の重さを和らげてくれるような、そんな気がして妙な胸の高鳴りを覚えた。
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