その唇に魔法をかけて、
 中休みが終わり、着物に着替えてエントランスに行くと、かえでが困ったような顔をして玄関飾りの生け花の前で立っていた。

「素敵な牡丹ですね」

「あら、美貴ちゃん。藤堂さんに生けるように言われたんだけど、私ってどうもセンスがなくってねぇ、困ってたのよ」

 ピンクや薄紫といった色鮮やかな大輪が特徴的な牡丹は、美貴も好きな花のひとつだった。一輪挿しでも十分存在感がある。

「私、学生の時にお花を習っていたので、私でよければお手伝いしましょうか?」

 そう申し出ると、思わぬ救世主に、かえでがぱっと顔を輝かせた。

「ほんと? 助かるわ~さすが、グランドシャルムのお嬢様は違うわね」

「か、かえでさんっ」

 美貴は慌てて口に人差し指をあてると、かえでもはっと口を抑えた。

「どこで誰が聞いてるかわからないですから」

「ごめんごめん! じゃあ、お任せしちゃっていい?」

「はい」

 そう言ってかえではそそくさとその場を後にする。美貴は生けかけた牡丹の花に向き合うと試行錯誤し始めた。
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