その唇に魔法をかけて、
“百花の王”と呼ばれている牡丹の花姿は短い。華麗に花開いている間、いかに美しく見せるか悩みどころだ。

(これでよしっと、う~ん、もうちょっと葉を広げたほうがいいかな)

 牡丹の花は豪勢だ。こうして玄関に飾れば来客も一番に目につくだろう。そう思うと、美貴は納得のいくまでバランスを整えなければ気がすまなかった。

「ほら、あれ見て、気に入られようとしちゃってまた頑張ってるよ」

「ほんとだ~花城さんにアピール?」

「あはは、よくやるよね~」

 廊下の奥から自分を見ながら笑っている同僚が横目に入る。顔を向けると陰口を叩いていた同僚がそそくさと逃げるように去っていった。

(今の、私のことだよね……?)

 辺りを見回してみてもここにいるのは自分だけだ。階段から誰か降りてくる気配を感じて見ると、彩乃とはたっと目が合った。

「あ、彩乃ちゃん」

「美貴……」

 彩乃が生け終わった牡丹の花をじっと見ている。綺麗な花に浮かれた美貴とは違い、その視線はどことなく冷たい。

「かえでさんから頼まれて……綺麗な牡丹――」

「美貴ってやっぱりお嬢様だったんだ」

「え……?」

 美貴の言葉を無視するように彩乃がぼそりと呟いた。あんなに明るく声をかけてきてくれたというに、その沈んだ声音は嫌悪感を滲ませていた。
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