大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
ハワイに着いて、レンタカーを借り、壮一郎さんさんと、リュウの運転でコンドミニアム型のホテルにたどり着くと、馴染みのコンシェルジュがやって来た。いつもは3ベッドルーム部屋を2部屋借りていたが、スミス氏の計らいで、最上階の ペントハウス の部屋が取られていた。
リュウはいつものタイプの部屋がもう、満室で取れないことを知り、溜息と共に
「壮一郎、スミスさんの名刺貰った?」と聞いて、(もちろん、壮一郎さんは名刺交換している。)お礼の連絡をしてから、チェックインした。
「パーティに誘われた。」と渋い顔をしている。壮一郎さんは、笑って、
「逃げられないってことだね。リュウは用事なんか無いからね。」と言ったが、リュウが
「東野夫妻も招待されてるぜ」と言い返し、壮一郎さんの笑いを止めた。
僕等子供には関係無いので、知らんぷりを決め込み、いそいそとエレベーターを止める。東野家の末っ子の槇が
「早く〜」と無邪気な声を出し、その話はお終いになった。

プールサイドにあるプライベートカバナ(天蓋付きのテント) のソファーにごろりと横になって、陽の高い間は過ごす。僕以外はプールや、ジャグジーに浸かったり、めいめい過ごす。僕は、宿題や読書や昼寝をして、のんびりしている。あやめの水着は、控えめなビキニだけど、僕には十分すぎるほど眩しい。身体のラインが刺激的すぎるので、あまり見ないように注意が必要だ。あやめは、まるで気にしていないように僕の上に水の雫を垂らしながら、僕の顔を覗き込んでくる。
「プールに入れないなんて、かわいそうなチビ虎。」と歌うようにからかってくるので、僕は意地悪したくなって、あやめの手を引いて僕の上に倒し、耳の側で
「こないだのキスの続きする?」と囁いてやった。あやめは僕をグッと睨んでから、逃げていく。怒った顔も好きだよと言いたかったが、弟達が戻ってきたので、止めておいた。鷹人(たかと)が、
「また、あやめを怒らせてるの?」とあきれた声を出すので、
「勝手にあやめが怒ってるだけだよ。オンナは直ぐ怒るんだ。」と言ったら、柊(ひいらぎ)も、顔をしかめて、
「僕もそう思う」と言うので、僕は笑ってしまう。槇は
「チビ虎は、あやめと結婚するの?」と聞いてくるので、
「槇、チビ虎じゃなくって、虎太郎って呼んで。大人になったら結婚するよ。他に好きな人が出来なかったらね。」とニッコリ返事をする。
「へーー、他に好きな人が出来る予定があるのかな」と壮一郎さんが会話に加わる。盗み聞きはやめて欲しいと思いながら、
「今のところ、あやめしか見えてないよ。」と答える。うちの大人達に嘘は通用しない。追い詰められて、白状させられるより、ずっと、恥ずかしくないことを僕等は身をもって知っている。
「ふーーん。チビ虎、ムキになって、言い返さないんだね。大人になってきたんだな」と壮一郎さんは笑顔をみせた。
「おかげさまで。」と僕はすまして答えた。
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