大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
2時間くらいで部屋に帰り着く。もうすぐ昼になる。八木さんがドアを開けてくれる。
「お帰りなさい、また、背が伸びたんじゃ、ないですか?」と笑う。そして、
「お留守番、今晩1人で大丈夫ですか?」と聞く。大丈夫に決まってます。僕は高校生ですけど、と内心ため息をつき、
「困ったことがあったら、東野の家に行くから大丈夫。」と八木さんが安心して、帰れるように言っておく。
八木さんは、お昼にサンドイッチを作って冷蔵庫に入れてくれたみたいだ。僕は八木さんを帰宅させ、リビングルームでひとりになる。
ひとりきりで家にいるのはすごく久しぶりだ。リビングはしんとしている。ソファーベットをフラットにして僕はごろりと横になる。
このベットは昔リュウがナナコの部屋で使っていたものらしい。革を張り替えて子供達がお昼寝用に使っている。年代物だ。
僕は冷房が効いた心地よい部屋ですっかり眠くなってしまった。結構時差にやられたのかな。荷物も、服装もそのままだ。面倒くさい。

「チビ虎、起きて。」と声がする。目を開けると、怒った、あやめの顔があった。
「何度もLINEしたのに、返事がないから、こんなことだろうと思った。」とあきれている。
「あれ、あやめ。おはよう」と言うと、
「馬鹿。いつまで寝てるの?駿太君と連絡取った?花火はやっぱり、中止になったけど、ちゃんと、連絡取り合わないと、心配してるんじゃないの?」と言われ、
「やべー。」とスマホを取り出した。もう、16時だ。案の定、いくつもメッセージが届いていた。急いで、返信をする。あやめはキッチンに立って、お湯を沸かしている。コーヒーを入れてくれるみたいだ。しばらく、LINEにかかりきりになる。あやめがテーブルにコーヒーを置く。僕はあやめに
「ピザ、どれにするか、考えといて。」とノートパソコンを開いて、メニューを見せた。あやめは、興味深々で、メニューをジーっと見ている。時々、口の中でブツブツ言っていて、子供の時みたいでなんだか可愛い。あやめは夢中になると、口の中でブツブツいう癖があった。さすがに、最近はあんまり、見なくなったけど、まだ、気を許すと、癖が出るんだな。とあやめをみつめた。あやめは僕の視線に気が付き、
「何?!」と怒った、声を出す。
「なんでもない」と僕は、スマホに目を落とし、クスクス笑う。
「何?!」とまだ、怒っているので、
「怒った顔のあやめも好きだよ。」と言ったら、
「馬鹿!」と言って、顔を背けた。


また、来週の花火大会にサッカー部の連中と行くことを約束し、スマホを閉じる。
「あやめ、来週の花火は一緒に行ける?」と確認すると、
「夕方まで昴君のところに行く予定でしょう?その後、一緒に行こう。」と笑った。そうだった。まだ、頭が寝ているな。と頭を掻く。とあやめが、
「帰ってから、シャワーも浴びずに寝ちゃったんでしょう?シャワー浴びて来て。」と顔をしかめた。
僕はハイハイと答えて、バスルームに移動する。僕もシャワーが浴びたいと思ってましたよ。

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