大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
シャワーを終えて、ハタ、と気付く。パンツ、持ってくるの忘れた。バスタオルはバスルームの前室にあるけど、パンツは2階か、トランクの中だ。
僕は仕方なく、バスタオルを腰に巻いて、リビングに立った。とあやめがみるみる顔を赤くして、
「そんなつもりで、シャワー浴びて来てって言ったんじゃない。」と立ち上がって、逃げ出す体制だ。待て、僕だって、そんなつもりじゃない。
「待って、あやめ!違う!」と僕は情けない気持ちで、あやめを止める。あやめは、一目散に玄関に向かう。僕は追おうと、慌てて、左足をついてしまい、バランスを崩して、リビングに転がった。ドンと鈍い音がして、仰向けに倒れる。
ああ、情けない。
目をつぶる。
どうして、こんな事になっちゃうんだろう。結構な勢いで、左の肩甲骨をぶつけた。多分あざになるだろう。明日の、リハビリにいったら、三ツ矢さんになんで、こんな所にあざができてるのかって、呆れられそうだ。あざが治るまで、この失態を何度も思い出すんだろうな。
やれやれ。

足音がそっと近づいて来る。
「大丈夫?」とあやめの声がする。
「あんまり見られたくない」と僕は不機嫌な声を出す。
「だって、…」とあやめは少し離れた所から僕を覗き込んでいる。僕は仰向けのまま、
「僕はあやめが好きだよ。ずっと一緒にいたいって思うくらい。でも、無理に全部が欲しいって、今は思ってないよ。色々したいのは、山々デスけど。僕はあやめのちゃんとした許婚になりたい。幼なじみの延長じゃ、なくってさ。あやめに、オトコとしてみてもらいたいだけだよ。」と言った。あやめは少し黙ったままだったが、
「あのね。今のはちょっと驚いちゃっただけで、虎太郎が嫌なわけじゃ、ないの。むしろ、すごく、好きなの。えーと、…虎太郎とキスするのも、くっついたりするのも、好きなの。きっと、虎太郎が、きちんと私を求めてくれたら、全部が欲しいって言ってくれたら、そうしたいの。私は色々初めてなので、えーと、出来れば、もう少し後で、お願いします。で、でも、他の女の子を好きになられたら、困るし、他の子とキスとかして欲しくないし、他の子と…」おっと、あやめ、だんだん支離滅裂になってきてるな。
「あやめ、僕は他の子の事は好きにならない。だから、あやめは僕だけ見てて。」と僕は笑った。
なーんだ。あやめのヤツ。僕が好きなんだ。僕はホッとして、少し、くすぐったい気持ちで、あやめに手を伸ばす。
「起こして。すごく背中痛い。」と言って、あやめの手を引っ張り、起き上がる。そして、あやめを、抱きしめ、
「大好きだよ」と囁いた。
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