夏時計
まるで誰かが僕の心臓を操っているように、さっきからドキドキが収まらない。
それは紛れもなく、恋に落ちた証。
「あ、いや!そうだ!君の名前は!?僕は禅!夏目、禅!」
緊張してるのが悟られないように努めて明るく振る舞う。
だけど妙に早口になってしまって、その時の僕ときたら、不自然極まりなかっただろう。
…恋に落ちる瞬間はあまりに突然だった。
「私は……深羽。」
「……みわ?」
繰り返した僕に少しだけ微笑んだ彼女は
「そう。深い羽って書いて深羽。」
空中に文字を書きながら教えてくれた。
「深羽……。綺麗な名前だね。」
「……うん。私も気に入ってる。」
ざぁっと木々が風に煽られて、鳥たちが一斉に飛び立ってゆく。
セミが一瞬だけ鳴きやんで、太陽が雲隠れした夏の真ん中。
僕が、深羽に恋をした夏のある一日。