夏時計
それはとても幸福な時間だった。
彼女の笑顔を見る度に僕の心はときめいて、彼女が口を開く度に知らない深羽を知る事が出来た。
深羽は僕の一つ上の高校一年生で、好きなのは無糖コーヒーとお裁縫。
着てる服も市販のワンピースに自分で刺繍をしたんだと教えてくれた。
実は絵を書く事も得意な彼女は、この街に風景画を書きに来たらしい。
僕からしたら、こんな山と田んぼしかない所を書いたって楽しくないんじゃないか、と思ったけどそれは敢えて言わなかった。
『自然に触れる事は、自分を見つめ直す事』
そう言った深羽を、僕は心底美しい人だと思ったから。
出来上がったら見せてくれる、と言った彼女の言葉が受験に負けそうな僕を支えてくれていた。