夏時計
「……え?行けない?」
「…うん、ごめんね。」
夏季講習を終えて、逸る気持ちを抱えたままいつものように彼女に会いに行くと、思いがけない言葉に僕の心は打ち砕かれた。
「……禅?本当、ごめんね?」
ボケッとしてた僕の顔を覗き込んだ深羽が、悲しそうに眉を下げて見つめている。
「あ、い、いや!そうだよね!夜だし、すごい混むし、大変だしね!」
僕は焦るとどうやら早口になるようだ。
感情が顔に出ないように必死で笑顔を作る。
そう、僕は見事なまでに花火大会の誘いを断られた訳で。
別に告白した訳でも、フラれた訳でもないのに
既に失恋してしまったような気持ちに陥ってしまう。
「そ、そうだ!絵、いい感じに進んでる!?」
僕は少し落ちてしまった空気を取り払うように深羽に問い掛けた。