夏時計
ふんわりとした笑顔で
「うん、順調だよ。後は色を付けるだけ。でも、」
そう言って深羽はホームから見える景色に視線を向けた。
「ここから見える景色も変わらないように見えてるけど、実は日に日に違う顔を見せるの。」
「え?」
夕暮れ時の無人駅のホームに二人きり。
僕は深羽の言葉を追い掛ける。
「……もうすぐ、夏が終わる。そしたら、また秋が来る。」
ポツリ、と呟いた彼女は僕に視線を戻して
「夏の青々とした風景を描くのが一番好きなんだけどね。」
いつもの笑顔で笑った。
「そうなんだ。」
そう言って彼女に答えたものの、絵心のない僕にはこの景色さえも何ら変わりないように見える。
ふと、深羽の瞳にはこの景色がどんな風に映っているんだろう、そんな事を思った。