夏時計
それは真夏の今感じる風とは違う、涼しいような冷たいような、だけどとても優しい風。
僕はそれに誘われるように風が吹いた方向へ顔だけを向ける。
「……あ、」
時が、奪われた。
……いや、違う。
僕の心が、瞳が
僕の五感が全て、彼女に奪われた。
透き通るような白い肌。
憂いを帯びる、瞳。
風になびく、栗色の髪。
ほのかにピンクに染まった、唇。
彼女は、その美しい横顔を空に向けていた。
そして次の瞬間
ガコン!と音を立てて落ちたジュースは無糖のコーヒー。
「マジかよ……。」
僕は甘党で、砂糖の入ってないコーヒーなんてとてもじゃないけど飲めなかった。
しかもこの真夏にホットときたら、僕のテンションは急下降。
…最悪だ。