夏時計
つーか、何でこの糞暑い真夏にホットコーヒーなんか販売してんだよ!
…なんて、駅員の居ないホームの自販機に心の中で八つ当たり。
ったく、これだから田舎はよー…。
「はぁ……、」
と大袈裟な深い溜め息をつき、再びポケットから小銭を取り出すと
セミの鳴き声と共に僕の耳へ届いた透き通る声。
「それ、いらないの?」
まるで幽霊でも見たかのように目を丸くした僕に彼女はもう一度
「それ、飲まないの?」
と尋ねてきた。
いつの間にか縮んだ距離に驚きつつも、僕はまだ自販機の出口に転がったままのコーヒーに視線を置く。
まさか声を掛けられるなんて思ってもみなかったから、僕の心臓はバクバクと音を立てながら右往左往に暴れ回っていた。