夏時計
僕が彼女を見ていたのはほんの数秒の出来事で、だけどそれは永遠にも似た、時の流れを感じる程美しかった。
それと同時に感じる、彼女の儚さ。
――それは、触れてはいけない神秘。
「……私、顔に何かついてる?」
「え?」
彼女の視線が僕に持ち上げられ、それに気が付いた自分が取った行動に更に驚いてしまった。
「い、いや!別に!」
そう言って首をブンブンと振った僕は、慌てて小銭を自販機に沈めると迷う事なく冷たいコーヒーを押す。
もちろん、無糖の。
「や、やっぱコーヒーは無糖ですよねぇ!」
あからさまに不自然に敬語になる口調と、胸の高鳴りを誤魔化すようにそそくさとプルタブを開ける。
そして一度だけ深呼吸をして、糖分0のコーヒーで喉を潤した。