夏時計
自分でも、自分がバカらしくて笑えた。
飲めもしないコーヒーをかっこつけて飲んで。
初対面の彼女にどう思われようが、僕には一切関係ないはずなのに。
だけど、どうしてだろ。
目の前に居る彼女にすぐバレてしまうような嘘をついてでも
彼女には、何故か嫌われたくなかった。
だけど、今ならわかる。
…僕は、彼女に好かれたかったのだ。
誰でもない、君に。
「……ぅ…。」
缶コーヒーから口を離した途端、独特の苦味が広がって僕は口元を押さえた。
「…どうしたの?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
ふわりと風に揺れた彼女の前髪が、その端正な顔立ちを際立たせた。
思わずドキリ、と高鳴る僕の心臓。