君にアイスを買ってあげるよ
負けるもんか
お彼岸で親戚の叔母さんが来てくれる。いつもお土産をたくさん抱えて来てくれるので、子供の頃から好きな叔母さんだ。
ちょっと珍しいお菓子や、果物、自分で作ったおはぎや、栗ご飯をパックに詰めて持って来てくれる。
ちょっと大きくなったら、お小遣だよ、とテイッシュに包まれたお金をくれた。
明るくて、にこにこしてて大好きな叔母さんだ。
来たらいつも爺ちゃんの遺影を拝んで、お線香を立てて おりんをチンチン鳴らす。
まるであの世まで、お線香をあげに来ましたよと言っているみたいだ。おっきな音じゃないと、あの世まで届かないみたいだ。
本当に本当に久しぶりに、叔母さんの来てくれる日に家にいた。
お彼岸の土日は親戚が行ったり来たり、同じ菓子折りが親戚中をぐるぐる回ってるって話もあるくらい、ばたばたと人の出入りがある。
そんな土曜の午後に叔母さんは家に来た。
「こんにちは拓海くんも大きくなってまぁ…叔母さん追い越されたねぇ」
童顔で身長だってあんまりない僕から見ても、叔母さんは小さくなっていた。
そのことに、びっくりしていた。自分では大して成長していないのに、いつの間にか僕は叔母さんの身長を頭ひとつ抜いていた。
ちっちゃくなって、シワだらけでも叔母さんはにこにことして僕の手にお小遣を渡してくれた。
「叔母さん、もう僕は働いてるからいいよ」
慌てて返そうとしたら、ぎゅっと両手で手を握って、
「拓ちゃんには、何かしてあげたくってね。ほんの気持ちだから」
そう言って受け取ってくれなかった。
いつものようにお線香を立てて、おりんをチンチン鳴らして…母さんがいれてくれたお茶を飲んだ。
親戚の近況、誰が腰が痛いだの、どこぞの孫が結婚するだの笑いながら話に花がさく。
頂きものの梨をつまみながら、聞くともなしに聞いていると、
「あたし最近、物忘れするのよ」と叔母さんが言った。
「テレビの芸能人の名前が、すらすらと出て来ないのよ。物の名前を忘れて、あれあれってなる」
母さんも笑いながら、そうそうなんて相槌を打っている。ひとしきり名前の出てこない芸能人で盛り上がった後、ぽつりと言った。
「お鍋をかけたのを忘れないように、タイマーをかけてるんだから」
笑いながら話しているけれど、年を取るってちょっと悲しい。
帰る時になって、叔母さんはがさがさとコンビニ袋を出して僕にくれた。
なかにはお菓子がたくさん入っていた。どれも子供の時から好きなものばかりで、覚えていてくれたことが嬉しかった。
ココナッツサブレ、
チーズあられ、
ポッキー
小さな缶ジュースもあった。
懐かしくなって、チーズあられの封を開けた。変わらない、香り。一口、口にいれて違和感を感じた。
なんだか、いやな油の味がした。古い酸化した油だ。
慌てて袋を返して賞味期限を確認する。
20xx.09.20
あ、過ぎてるからか。
しばらくぼんやりした。貰ったお菓子全部、ひっくり返してみた。賞味期限がひっかかるのは、封を開けたひとつだけだった。あと一ヶ月とか、ぎりぎりが多かったけど。
かりかりとお菓子を食べる。
味は悪い。もしかしたら、胸やけするかもしれない。
でも、僕のお腹は賞味期限になんて負けないんだ。このお菓子には、気持ちがあるから。
負けるもんか。お菓子になんて。