君にアイスを買ってあげるよ
鍋の季節
「橋田、ちょっと顔かせ」
事務所に帰るなり森田さんから声がかかる。
「なんですか人の用事も確認しないで」
森田さんはファイルの陰で、にたっとした笑いを作りながら答えを返してくる。
「用事があるとでも言う訳か。あったとしても断れ」
「なにを、いきなり」
「先輩のお誘いを断る訳ないだろう~なぁ」
「強引だ、ワンマンだ」
すうっと森田さんの目が細くなる。獲物を前にして、どう料理するのか考えている獣のようだ。
「じゃ予定あるの」
「…ありません」
「じゃあ決定な」
仕事終りに待ち合わせることにして、いったん離れることになる。
がっくりと肩を落として、ため息をつくと、凄い勢いで回転椅子が回された。
がっしりと背広の肩を掴まれていて、引き気味な僕と前のめりな女性。
迫られてるみたいだけど、僕達にはそんな甘い空気なんてない。
「何っ、何話したの、どーして橋田クンなの」
ぐらぐらと腕を伝い、頭まで揺らされている。