君にアイスを買ってあげるよ
「聞いてないです、初耳ですからね」
普通に飲みだと思っていたから、沢田さんも誘ったんだけど…言わなくちゃ…
「飲みだと思って沢田さんも誘ったんですよ」
ちら、と振り返れば沢田さんは、ヒールの高い靴で必死について来ている。
「人数が増えるのは構わないさ。鍋だから」
振り向いた森田さんは、体半分振り向いたまま待つことにしたらしい。
この人、今まで沢田さんのこと眼中になかったんだ。言わなかったら、店まであのスピードで突っ走ってたな、きっと。
「橋田くんに誘われて…ご一緒していいですか」
綺麗に整えていた髪が、ほつれて、頬が上気している。一生懸命な感じがした。
「ごめんね、ちょっと急ぎすぎた」
ゆっくり歩き出しながら、ちょっと森田さんが変わった気がした。
気をつかう人だし、優しい人だけど、さっきの底抜けな楽しさは消してしまった。
「お鍋、何鍋にするんですか」
「奮発して海鮮とかがいいかな。沢田は嫌いなものある」
「蟹も貝も大好きです」
「うわ、蟹ヤバイでしょ割り勘でも結構いくよ」
肩を並べて歩くのを見てる。自分でも何してるんだろって気になる。
好きなコの応援なんてするもんじゃない。たとえ頼まれたって受けちゃいけない。
泣き顔なんて作られても、ダメだ。その後で、こんなに辛くなるなんて。