君にアイスを買ってあげるよ
車が通りすぎる一瞬に、前を歩く二人が照らしだされる。
二人は光のなかにあるようで、闇からとぼとぼと着いていく自分はなんだろう。
羨みながら、ただ見つめるだけの獣。
「橋田っ」
ふいに森田さんの声がする。
喉の奥がつんとして、応えようとする声が出ない。
「橋田、橋田ーー」
「…軽く呼ばないでくださいよ、猫じゃあるまいし」
「きちんと着いて来てるのか」
森田さんは振り向かずに、声を張りあげる。
「来てます、森田さんの奢りですからね」
「…言ってない。なんで俺が奢る」
「カワイイ後輩ですよ~奢っとかないと」
「意味わからん」
「手伝ってあげてるじゃないですか」
「それが仕事だろ」
「仕事ですよ」
残業になれば、気を使うのを知ってる。普段はお茶なんていれないのに、ゲロ甘紅茶を出してくれる。
食事や帰りの電車の心配もしてくれる。
仕事だからね。サポートには入るよ。やっぱり成績を出し続けることは大変だと思う。見えない所でも、している努力がある。
男同士だから、気軽に頼む所があるんだろう。女の子に頼むには仕事量がハンパない時がある。
「だけど俺だって誰にでも頼む訳じゃないからな。橋田なら出来ると思うから頼むんだ」
顔が見たかった。
どんな顔して言ってるんだ、こんな台詞。
「橋田は丁寧だし、そこそこ早い。丁寧で遅いんじゃ困る」
「褒めてるんですか、それ」
「褒める程じゃない。認めてるだけさ」