君にアイスを買ってあげるよ

ああ。


森田さんは、お世辞を使う人じゃないんだ。

あいまいだったお世辞と褒め言葉の境界線が、くっきりと浮かび上がる。

自分の仕事を認めてもらえたことが、単純に嬉しい。お世辞を言わない森田だから…仕事の出来る森田さんだから…



だから、きっと嬉しいんだ。


仕事を認めてもらったことが、自分の仕事に対する姿勢だったり、考え方…ひいては生き方まで認めてもらえたように感じられた。

会社という組織ではチームワークを求められるけれど、煩わしい上下関係もある。やりやすく仕事を整えることも作業の一部だったりする。



森田さんと並んで歩いていなくて良かった。

今は顔を見られたくなかった。



涙になれない雫は鼻から垂れさがり、変に力の入った口元は嗚咽をこらえるのに震えている。

なんで泣きそうになるかなぁ…




何事もなかったように歩いている森田さんが、憎らしいくらいだ。

森田さんからしたら、なにげない一言かもしれないのに、なんでこんなに心を揺さぶられないといけないんだろう。



森田さんと沢田さんの後からついて行きながら、店につくまでに、鼻水が止まればいいと願っていた。

目や鼻の頭が赤くなっていたなら、寒かったからって言おう。



ショーウインドウに写る自分は暗くて、顔色まではよく分からない。

まばたきして、視界の歪みをはらう。




店についたら、笑っていられるように。

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