君にアイスを買ってあげるよ
森田さんが取り出した土鍋は、どうみても一人暮らしの家にあるサイズではなかった。5~6人食べられるサイズだろう。
「前に友達と鍋するんで買ったんだけど、デカすぎてお一人様で使えないんだ」
苦笑いしながら、鍋に誘った理由を話す。
沢田さんからしたら、恋人どうしで仲良くつつく鍋ではなかったから、安心したかもしれない。
「じゃあ、お鍋が食べたくなったら、いつでも呼んでくださいね」
笑顔で話している。
「その時はまた頼むよ」
沢田さんが包丁を握り、野菜を刻んでいく。それを鍋に並べるのが僕で、森田さんは監視役だ。
「ちょっと森田さん、少しは手伝ってくださいよ」
「なにを言ってるんだ、やってるだろ」
簡単なキッチンから、部屋にガスコンロや取り皿が用意されている。何気なく運んでくれている。
「俺はね、酒を減らす係なんだよ」
缶ビールを煽る喉が、ごくごくと動く。
「……ずるい、それ」
森田さんが酔い潰れた姿は見たことがない。森田さんのお酒は、楽しいお酒でアルコールが入ると、いつもより笑って、いつもより話してくれる。
「いーよ、橋田も沢田も飲め。あとは煮えるのを待つんだろ」
冷蔵庫から冷えた飲み物を出してくれる。沢田さんにも口当たりのいいサワーを渡している。
きちんと覚えてくれてるんだな。まぁ酔ってしまうまでは、かな。