君にアイスを買ってあげるよ

森田さんが取り出した土鍋は、どうみても一人暮らしの家にあるサイズではなかった。5~6人食べられるサイズだろう。

「前に友達と鍋するんで買ったんだけど、デカすぎてお一人様で使えないんだ」

苦笑いしながら、鍋に誘った理由を話す。

沢田さんからしたら、恋人どうしで仲良くつつく鍋ではなかったから、安心したかもしれない。

「じゃあ、お鍋が食べたくなったら、いつでも呼んでくださいね」

笑顔で話している。

「その時はまた頼むよ」

沢田さんが包丁を握り、野菜を刻んでいく。それを鍋に並べるのが僕で、森田さんは監視役だ。

「ちょっと森田さん、少しは手伝ってくださいよ」

「なにを言ってるんだ、やってるだろ」

簡単なキッチンから、部屋にガスコンロや取り皿が用意されている。何気なく運んでくれている。

「俺はね、酒を減らす係なんだよ」

缶ビールを煽る喉が、ごくごくと動く。

「……ずるい、それ」

森田さんが酔い潰れた姿は見たことがない。森田さんのお酒は、楽しいお酒でアルコールが入ると、いつもより笑って、いつもより話してくれる。

「いーよ、橋田も沢田も飲め。あとは煮えるのを待つんだろ」

冷蔵庫から冷えた飲み物を出してくれる。沢田さんにも口当たりのいいサワーを渡している。

きちんと覚えてくれてるんだな。まぁ酔ってしまうまでは、かな。


< 18 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop