君にアイスを買ってあげるよ

狭い部屋で体をくっつけるようにして、こたつを囲む。

酒のつまみが広げられて、笑いながら手が伸びる。

「いいよね、ここは」

ほんのりと酔いながら沢田さんが笑った。

「気兼ねないだろ、お前達は」


暖かくて笑いがあって落ちついていられる。

わずかに引き開けられていた戸から台所を窺うことができた。

ガスコンロにかけられた鍋から白い蒸気が噴きだして、いい状態に熱が加わったと知らせてきた。

「よーし。メインディッシュの登場だ」

森田さんが席を立ち、タオルで持ち手を掴んで運んできた。

卓上コンロの上に移された鍋の蓋が開けられると、ほわんとした湯気が立ち昇った。ぐつぐつと煮えた野菜も魚も食べ頃で、わあっと歓声が上がった。

「美味しそー」

「本当、旨そうに出来てる」

「なんだ、橋田は鍋作ったことなかったのか」

「いや、あんまり手伝いしたことなくて…自宅にいたら料理なんてしないですよ」

「覚えといて無駄なことはない」

そうはいっても森田さんが料理する姿を見ていないのでぴんとこなかった。

ただ、複数あった包丁や独り暮らしの割に鍋や食器があるなというのは漠然と理解していた。

「料理できたら便利だぞ。いい気分転換にもなる」

「えー。森田さんの料理食べたいなぁ」

いい具合に酔いの回った沢田さんが森田さんに甘えるように言った。

一瞬、固まった森田さんはかすかな笑いに紛らわせて、今日は鍋だからまた今度と各々に鍋を取り分けてくれた。

「約束ですよ、森田さん」

はっきりとした約束をとれなくて沢田さんが焦れるのを

「少し飲むペースが早かったな。鍋を食べて落ちつけ」

沢田さんのために割り箸を割ってやり、器に添えた。そして自分でも器を持って食べはじめた。

つられて僕も箸をつけ食べた。

「うん。美味いよ。沢田も冷めないうちに食べな」

「ほんとズルイ」

かすれるような沢田さんの声がした。



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