君にアイスを買ってあげるよ
「どうしよう、橋田クン…どうしよう」
目をいっぱいに見開いて、こぼれそうな涙が目尻に居座っている。
彼女は同じ課の沢田美月。ランチの間に、いったい何があったっていうんだ?
「まぁ、まぁ落ち着いて下さいよ」
とりあえず、座りなさいよと休憩室の椅子に連れてくる。落ち着くように、紙コップの紅茶を持たせる。
考えこみながらも、紅茶に口をつける。
「どうしたって言うんですか」
「赤ちゃんができたって」
「えっ」
誰といつの間に
「あたしじゃないわよ、森田先輩がそう話していたから…」
小さく息をつく。それでビックリして、確認する勇気もなくって、そんな顔してるんだ。
何して欲しい
僕の気持ちは透けて見えてないみたいだ。こんな相談に乗るなんてね。
「聞いてみましょうか、そのこと」
ぱっと顔が明るくなる。座らせていた彼女から熱のこもった視線で見上げられると、急に緊張してきた。
「ありがとう、いいの橋田くん」
「いいですよ、ただし覚悟はしといてくださいよ」
釘は刺しておく。たとえ本当に森田先輩が誰か付き合っている彼女を妊娠させてしまったのだとしても…泣かないで欲しい。きっと泣くんだろうけど…
僕はどうやって慰めたらいい?そんな時に告白なんて出来ない。ただ泣くのに付き合うしかできないよ。
「本当に本当にお願いね」
彼女の言葉を聞きながら、背を向ける。携帯を取り出して、外回りの森田先輩にメールを入れる。
『今日、飲みませんか』
ジョッキのデコメがちかちか点滅する。
待つ間もなく、すぐにリターンが来る。
『おっ、いいねぇ。この前のとこでどうだ。7時には行ける』
『了解です。席取ってますね』