君にアイスを買ってあげるよ
森田先輩の言葉に息が詰まる。
確かに悩んでますけどね。誰が原因だと思ってるんですか。
「森田先輩みたくモテたらきっと悩みませんよ」
「俺?モテないね。彼女、絶賛募集中だよ」
熱々の焼鳥を、はふはふ言いながら頬張っている。本当に旨そうに食べる人だ。見ていて気持ちがいい。
「赤ちゃん出来たって噂になってますよ」
「誰に?」
串がだらんと垂れさがる。じとっと睨みつける。
「……俺かぁ!?」
くしゃくしゃと髪を掻き回す。落ちつこうと、ビールを煽ってから口を開く。
「どこでそんな噂が出てくんだか」
緩めたはずのネクタイにまで手をやる。一気に酔いが回ったらしい。顔に朱がのぼる。
「誤解されるようなこと言ったんでしょ」
「身に覚えがない、オカシイだろ」
案外照れてるのかもしれない。
ふっと真面目な顔をしたかと思うと、聞いてきた。
「橋田は自宅だっけ」
「そうですよ」
「アレルギーないよな」
「まぁ…ありませんね」
ふうんと考えて、
「帰り、付きあえよ」
そう言ってきた。
体格のいい先輩は、足も長くて一歩が大きい。標準的に少し足りない(自己申告)男子としては、ちょこまか纏わり付くように追いかける。
急いでるみたいだった。いつも気のつく先輩なら、連れに合わせる配慮をしてくれるのに、目指す場所へ一目散だ。
公園を抜けると思ったら、砂場のそばの薮に向かって声をかけた。
「おい、出てこいよ」
がさごそと鞄を漁ると、コンビニ袋から餌を取り出した。
音に釣られてか、茂みからひょこひょこと子猫の頭が覗く。
白のぶちと、トラ猫、白い靴下をはいた黒猫だった。
「俺の子供」
皿にあけられた固形餌を、一生懸命食べている。まだ餌が少し大きいのだろう、時折頭を揺すりながら夢中になっている。
「俺さ、アパートだから飼えなくて引き取り手を探してたんだよな。今日、取引先で貰ってもいいって言ってもらえて、スゲー嬉しかったんだ」
それはオンナじゃない?聞いてみたくなったけれど、そのことに関心はないみたいだ。
彼女候補に入ってないみたいですよ、と教えてやりたい。
「でさ、どう橋田も」
期待した顔で聞いてくる。見せたからって情が移ると思ってるのか。
小さくてみーみー泣いて、一匹だったら生き残れないだろう。三匹いたから寄り添って生きてこれたんだ。
「じゃ、靴下はいた奴」
ふうんと言ってから笑った。
「よく見て決めたんだろ」
「一番美人だからですよ」
三匹のなかで、一番痩せっぽちだった。ぴんと立てたしっぽはお情けみたいな毛がチョロチョロ生えているだけだったし、後ろの右足は引きずっていた。
ただ、気性は穏やかで自分とは合いそうだと思った。
「いい男だな、お前」
「今頃わかったんですか」
帰ったらメールをしよう。猫の写真を添えて。先輩の秘密をばらしてやることにした。