君にアイスを買ってあげるよ
お土産は好き?
外出先から帰ると、部屋にひとだかりがあった。
頭をよせて、こそこそとつぶやいている。
悪口だったら嫌だなぁと思いながらも、そのひとだかりを回り込まないかぎり、席にはつけない。
「なーにしてんですかっ」
後ろから声をかけたら、ひゃあっと飛びあがって振り返った。
飛田さん、宮崎さん、沢田さんら女性陣に、珍しくいた森田さんも混ざっている。腕まくりして耳にペンを挟んでいるから、急ぎの書類に追われていたらしい。
「もおっびっくりさせないでよね」
「戻ってきたかと思うじゃない」
口々に女性陣から声がかかる。
そのなかでにやにやと森田さんは手招きした。
「見てみろよ~これ」
そう言って、沢田さんが抱えている箱を示した。
なんの変哲もないお菓子の箱。なかなか美味しそうなお菓子が包装から透けて見える。
「あ、お土産ですか。なんだか美味しそうだけど…5個しかないんですね。うちの部署、12人ですものね。お土産ジャンケン?」
うちでは、何か決めるのにジャンケン制を採用している。勝ち抜きお土産ジャンケンが開催されるのかと思った。
飛田さんから、くすりと笑いが漏れる。
「そうだぞ~これはただの土産じゃないんだ」
もったいぶるような森田先輩は、ちらと原口さんの席を見る。
「なんと!これは原口さんの土産なのだっ」
「ええっ原口さんが、お土産」
ケチで締まりやの!
心のなかで叫ぶ。珍しい…雨か?いや…ゲリラ雷雨だ。
身内からのお土産…
5個?
「あの人、わかってるんですか」
「わからない。奴は、数が数えられないんじゃないか?」
「あ…ええと…すっごくレアなお土産で、やっと買えたとか」
「馬鹿を言えっこれはドライブインの袋だ!あの場所ならあれやらこれやら他に名物はある」
ずいっと袋を見せる。確かに、そこには、もっと有名なお菓子がある。
「…確認しなかったんですね…らしいと言えば言える」
誰も座っていない席に目をやる。せかせかしてテンパっている原口さんの姿が浮かんだ。
「聞いて驚け!橋田、しかもこれはミルフィーユだ!」
「半分こしたらボロボロ崩れちゃうじゃないですか!」
「そうだ恐ろしい奴だ…原口…俺は仕事が手につかん…半分にしたって全員には行き渡らないんだぞ」
「………すげー」
ぱたんと箱を閉じながら、沢田さんがぽつりと言った。
「だから出世できないのよねぇ」