…だけど、どうしても
近くのカフェを提案すると、花乃の母親は驚いたことそのまま一人でついて来た。
「東倉英子です。」
そう名乗り、本当に花乃によく似た顔で笑った。
「紫苑さんよね、さすがに花乃が好きになる人ね。私、あなたがどんな人なんだろうって興味が湧いちゃってね、来ちゃった。」
来ちゃった、って…と俺が言葉を失っていると、夫には内緒なのよ、などと言う。
「花乃はどうしてますか」
「どうもこうも軟禁されて夫と完全対立状態よ。お陰で私への注意が逸れてるから、こうして私は家から抜け出せたってわけ。」
さも元気そうに振舞っているが、痩せ細った腕一つとっても、とても健康体には見えない。俺の怪訝な視線を敏感に感じ取って、東倉英子は諦めたようにため息をついた。
「…何よりも大事なあの子を人身御供にするみたいなやり方をして、うちが生き残ってね。私、どうしようもなく心身のバランスがおかしくなってしまって。ほとんど横になって暮らしているのよ。」
「ええ、花乃から聞いています。」
「あの子、私を慰めるのよ。あんなことはなんでもないことなんだからって。お母様が元気になってくれないことのほうがよっぽど辛いのよなんて言ってね。」
いかにも花乃が言いそうなことだった。
「あの子は昔から聡明で、物事をよく見渡せていてね。でも、だからかしらね、あの子がベストだと思う選択肢は、あの子自身を犠牲にしていることが多いの。あなた、付き合っているならわかるでしょう?」
「ええ、それはもう。」