…だけど、どうしても
3.
「何をしに来た?」
翌日は日曜日だった。黒田に迎えられて東倉の屋敷に入ると、花乃の父親が感情を押し殺した声でそう言った。その顔には疲労がありありと滲んでいた。
「今すぐ帰れ。」
「申し訳ありませんが、それはできません。花乃の部屋はどこですか。」
「2階の奥でございます。」
「黒田」
父親が咎めるが、黒田は落ち着いたものだった。ありがとう、と言って父親は黒田に任せ、俺は花乃の部屋へ向かった。
言われた通り、絨毯の敷かれた立派な階段を上り、2階に行く。
部屋はたくさんあったが、奥まで行くと迷うことはなかった。花乃と書かれた札がドアにかかっていたからだ。
そのドアをノックする。
「…はい。」
細く、掠れた声で返事があった。
「花乃、俺だ。開けろ」
「…紫苑?」
驚いた声についで弱々しい物音がして、ドアが開いた。
「どうして…」
久しぶりに焦がれた姿を見せたかと思うと、花乃はふらりと倒れかかってきた。
そのあまりにも軽い身体を抱きとめ、俺は思わず怒鳴った。
「馬鹿! 何やってんだ」
「…心配しないでって言ったのに。」
「何が元気だ。嘘ばっかりつきやがって。」
「元気よ。黒田から聞いたのね? 絶対知らせないでって言ったのに。」
「黙って見てられるわけないだろ。お母さんまで来たぞ。俺のところに」
「…本当に?」
俺は花乃を抱き上げ、目に入ったベッドにそっと運んだ。
部屋はそう広くはなく、花乃らしく綺麗に整っていて、簡素だった。