…だけど、どうしても
「…何も餓死するつもりなんかないわ。お父様が話を聞いてくれるまでのことよ。これしかできることがなかったの。」
俺に寄りかかって息をつき、言い訳がましく花乃が言う。
「いいかげん、自分の身体を犠牲にするのやめろよ。こんな消耗戦しなくたって…何も急ぐことないんだ。俺が何度だって来て話すから。」
「無理よ。お父様は絶対許してくれない。これが一番可能性のある手段だったの。」
小さな机に水の入った瓶とグラスが乗っているのを見つけ、水だけは飲んでいるのだとひとまず安堵した。ただでさえこないだまで痩せ細っていたのに、更にげっそりとして、化粧のしていない顔は酷く青白く、目は窪んで隈ができていた。
「あと少しよ。事態が好転してせめて外出を許されたら、会いに行こうと思ったの。」
「もう少し、俺を頼ってくれ。一人でこんなことするな。」
懇願する口調になってしまった。
花乃はぐったりとして顔を上げないが、少し微笑んだのを感じた。
沈黙が訪れた。本当は、言うことはもっとたくさんある。何度言っても、自分をすぐにないがしろにするから、もっと言い含めないといけないし、叱らないといけない。
だけど、結局口から出たのはこれだけだった。
「…会いたかった。」
「私も。…来てくれてありがとう。」
花乃の顔を両手で上げさせ、顔中にキスをゆっくりと降らせる。花乃はされるがままになって目を閉じている。
やがて目をあけると、しばらく見つめあってから、唇を重ねた。