…だけど、どうしても
リビングには英子さんも居て、穏やかな声で何か花乃の父親に話していた。きっと、俺達に話す時間を与える為にここに彼を引き留めてくれていたのだろう。
「あら、花乃。何か食べる気になった?」
「ええ、でもその前にお父様と話をさせて。お母様も聞いて下さる?」
「もちろんよ。ねえあなた?」
英子さんが朗らかに微笑んで夫を見る。東倉はかろうじて威厳を保っていた。東倉商事の社長も伊達ではない。
「まず何か食べなさい。」
「話を聞いてくれたら、食べるわ。黒田、ハーブティーを淹れてくれる?」
「はい。芹沢さんも同じもので?」
「何でも構わない。」
狙ってか図らずか、部屋の隅におとなしく立っていた黒田までもが、俺の執事かのような振る舞いをするので、父親の全面的な味方はここにはおらず、分が悪い。東倉は眉を寄せ、ため息をついた。
「座りなさい。」
「ありがとう、お父様。」
ゆっくりとしか動けない花乃を支えながら、椅子を引き、座らせる。英子さんと夫と大きなテーブルを隔て、向い合う形で俺達は並んで座った。
黒田の運んできたハーブティーに口をつけてから、花乃が切り出した。
「まず、こんなことをして、心配をかけてしまってごめんなさい。お父様だけじゃなく、お母様にも黒田にも、それから紫苑にも。」
口調は悠然として聞こえるほど、花乃は落ち着いていた。