…だけど、どうしても
4.
温かいポタージュを飲んでから、外に出たいと願い出て、紫苑と二人、庭のベンチに並んで座った。
「寒くないか?」
「大丈夫、もう風が温かいのね。」
ほんの2週間くらい、家から出なかっただけなのに、季節は移り始め、桜の蕾が開きかけていた。
「…何が、啖呵だよ。えげつない。」
私にならって空を見上げながら、紫苑がぽつりと呟いた。
「あんなふうに言われたら、誰だって黙るしかないだろ。可哀想に、親父さん。」
「そういうやり方も紫苑が教えてくれたのよ。」
「また俺のせいか?」
「そうよ。貴方が私を全部変えちゃった。」
私が言うと、紫苑が諦めたような、嬉しそうにも見えるような、複雑な顔で笑った。
「それは恋人冥利に尽きる。でもこんな無茶はもうやめてくれ。」
「…そうね。これからはもっと別の方法を選べるような人になるわ。」
今の私では、あれが精一杯だったから。武器になるものは、やつれた私自身と、言葉だけだった。
全て言い終えて父の顔を見た時、やっと私は父から許しをもぎ取ったことを確信した。それから紫苑を見たら、彼の黒い睫毛は、微かに、濡れていた。
「変えられたのは、俺の方だ…」
髪を緩やかに揺らす風に乗せるように、そっと言った。
「早く元気になれ。」
愛しい人が私の耳に唇を寄せ、甘い声で囁く。
「早く、抱きたい。」