…だけど、どうしても
「こっ!!」
美砂が素っ頓狂な声を上げ、自分の両手で慌てて口を塞いだ。
「…ん、やく?!」
学食中の視線が再び散らばるのを待ってから、小声で続ける。
「何がどーなってんの? やっと大学に来たと思ったら…」
「心配かけてごめんね。」
「ほんとよー! やめてよね。」
美砂に大学に来ている、と連絡をしたら、午前の講義が終わるなり学食に連れこまれた。
「え、で? 王子がプロボーズしたの?」
「美砂、その王子ってやめない…?」
「まあ確かに、知り合ってみるとあの人、王子っていうより、王様みたいよね。」
私は思わず吹き出した。きっと紫苑が聞いたら、それはそれは嫌そうな顔をするだろう。
「プロボーズっていうか、結婚を前提にしたお付き合いって感じね。特に今までと劇的に何かが変わるわけじゃないの。ただ関係が公然のものになるっていうこと。あと、父の承諾を得たの。」
「えーっ、あの頑固親父が? よかったねぇ…てっきり私は紫苑さんが花乃を無理矢理連れ去っちゃうもんだと思ってたー」
「うん…そういうことはね、提案しないでいてくれた。」
あくまでも紫苑は、父の承諾に拘ってくれた。きっと、私が苦しまなくて済むように。
「あと最近はね、母の調子も良くて…」
「えー! ちょっと会わないうちに、良いことばっかりだね。花乃、ずいぶん雰囲気明るくなったよ。良かったね。」
「うん…ありがとう。」
「で、も! 何があったか詳しく話してよね! 気になって授業どころじゃないっ!」
「…はい。」
私達はそれから学食でひそひそ、時に美砂の奇声を交えながら、午後の一コマをひとつすっぽかして、延々と喋り続けた。